万年筆への檄文

「あなたにとって、万年筆とは何なのか?」
そう聞かれたときに、自分なら何と答えるだろう。分身?人生?
 
 音楽をたしなむ私が、伝え聞いた考えを織り交ぜて言うならばこうだ。
 
 とある企画で、あるヴァイオリニストが、アイリッシュフィドルの町を訪ねるというものがあった。彼はフィドラーたちに訊く「あたなにとって、音楽とはなんですか?」すると、アイルランドの人々はこう答えた。「音楽ってなんなのか?考えたこともないなぁ」
 私はこの答えに驚いた。なぜ、彼らは「考えたこともない」と言ったのか。
 
 それは、音楽自身があまりにも身近だったからだ。生活の中に自然にとけ込み、それがない生活などない。彼らにとって音楽は呼吸したり、食べ物を食べるのと一緒なのだ。
 
これが私の伝え聞いたこと。
 
 私が考えるに、万年筆も同じ。書くことがなんなのか。そんなことは考えなくてもいい。万年筆がある生活は、日常そのもの、当たり前のことになってほしい。私はそう思うのである。
 
 万年筆ってなんですか?と訊かれて、人々が「考えたこともない」と答える。そんな力強い文化が根付き、社会がより豊かになるのを私は願っている。