これはちょっと極端な理屈かもしれませんが、書いてみましょう。
バイオリンの名器、ストラディヴァリウスは今から300年ほど前に作られました。
600挺(バイオリン以外も含むストラディヴァリが製作した楽器)が現存していると言われています。
言ってみれば単なる木の板にニスを塗った木の箱が、これだけ長い間弾かれ続けているというのは驚くべきことです。
ですが、いくら職人が手を尽くしても楽器の寿命というのはあります。
それは500年先かもしれませんが、あるのです。
ということは、「健康状態のいい」ストラディヴァリウスの音色が聞けるという現代は最後の幸せなときかもしれないと思うわけです。
やがてストラディヴァリウスが演奏に耐える強度をなくしたとき、彼らは博物館行きとなって、本物の音色は二度と聞けなくなってしまうでしょう。
音に関しては、「ストラディヴァリウスよりも新作の方が音色がいい」
という研究もあるようですが、音色の善し悪しは個人の好みが大きく、主観的なものです。
一方で楽器の性能、というのは科学的でもあるのですが。
音楽をひとつの歴史という観点から見るのなら、ストラディヴァリウスは歴史を感じられる生きた道具ですから、聞く価値はあるでしょう。
それにわたしは個人的にストラディヴァリウスの音色が大変好きなので「例え結果的に嫌いになるとしても、一度は聞いたらいいよ」と勧めます。
それでも、もしネームバリューに抵抗があるのなら、それは一度捨てみては?
伝説的な楽器にとらわれなくとも素晴らしい演奏は素晴らしいのです。
けれど、300年前から存在する楽器。なかなかない世界です。
一度聞いてみてください。